佳聲を聞く

にいにい蝉 本井 英

にいにい蟬抑揚なきが疎ましや   本井 英
俳誌「夏潮」
2016.10月発行(通巻111号)より

にいにい蝉は、確かにみんみん蝉やつくつく法師と違い、じーじーと抑揚なく鳴く。それが却って疎ましいというのは面白い。
人の生活にも同じようなことが言える。毎日毎日が同じ調子で過ぎていくと、かえって気分が落ち着かなくなることがある。泣いたり怒ったりする日常は煩わしいが、退屈しない。
掲句の前に次の句が置かれている。
山梔子の実の真緑のよそよそし  英
普段、側にいて何かと世話をやかれると煩わしいが、相手にされないと物足りなく不満が生まれる。
人間はなんとも不思議な生き物だ。

2016-10-06 | Posted in ブログ, 佳聲を聞くNo Comments » 

 

光悦忌 長嶺千晶

身ほとりに和紙の軽さや光悦忌   長嶺千晶

季刊俳句同人誌「晶」2016.5月発行 NO.16号より

 

光悦忌は、旧暦2月3日(享年79歳)。本阿弥光悦(1558~1637)は、京都で足利尊氏の時代から刀剣の鑑定、研磨などを業とする名家の生まれ。俵屋宗達との合作「鶴下絵三十六歌仙和歌巻」など斬新な発想で書や陶芸などに才能を発揮した。

掲句は、そうした光悦の自由な精神を具現化して詠んだもの。真っ白な和紙が身構えることなく筆の走るのを待っている。和紙そのものがすでに明るく自由な雰囲気を醸し出している。

2016-04-21 | Posted in 佳聲を聞くNo Comments » 

 

波郷の忌 中西夕紀

もの思ふ顔の川見て波郷の忌   中西夕紀
俳誌「都市」2016.2月号より

何かもの思いにふける男が、川面を見ている。その男を見るともなく見ていると、ふっと今日、十一月二十一日は波郷の忌日だと気付く。川を見ている男に波郷の面影を見たのだろう。
この句の面白さは、上十二音の言い方にある。この、もどかしい物言いに読者はちょっと戸惑う。それが、もの思う顔が実感となって伝わってくる仕掛けなのだ。
また、作者中西夕紀は秋桜子、波郷、湘子に連なる結社で俳句の道に入った。波郷に対する関心も深かいに違いない。

2016-02-29 | Posted in 佳聲を聞くNo Comments »