句集を楽しむ

句集『熊鈴が』 児玉和子

児玉和子句集『熊鈴が』
2016.7月 ふらんす堂発行

とんとんと膝で揃へて稲を結ふ  児玉和子

昔なら何処の農村でも見られた情景。稲を一株一株鎌で刈る。それを数本の藁しべで束ねるのだが、その時切り口を揃える。私の父も母も膝でとんとんと株を揃え器用に稲を束ねていた。束ねられた稲は、一つ一つ稲架に掛けられる。
山の好きな作者は、句集のあとがきに次のように書く。「リュックサックに付けた熊除けの鈴を鳴らしながら、野山を歩き、風景を眺め、鳥や植物や昆虫に出会う。この楽しみのおかげで私の生活も俳句も大きな広がりを持つようになりました。」「熊鈴を鳴らして、『今、人間が歩いているから、出てこないでね』と、動物たちにあやまりつつ、山の楽しさを少し分けてもらっている」
こうした、自然を労り愛おしむ目は、旅の途中で会った人々の生活にも注がれている。
掲句にもそんな作者の優しい目が感じられる。

一片の雪を目に追ふ水面まで
城巡る一水ありて寒椿
銅の流しに跳ねて寒の水
青き踏む水神様のあたりまで
どの路地もみな抜けられて島の春
花の雨福竜丸の覆ひ屋に
二輪草がさかんに話しかけてくる
茄子植ゑて行灯囲ひしてありぬ
玉苗の溺るるばかり水漬きをり
夏帽を押さへて千曲川(チクマ)遠望す
虚子句碑の文字のぱらりと涼しけれ
風吹けばむむと膨らみ帚草
稲光遠き記憶のやうにかな
石の湯 稽古会 一一句(以下四句)
熊鈴が廊下を通る宿の秋
新涼の窓に白樺暮れ残る
秋冷の川曲(カワワ)に溜まる山の砂
八月が終はると雨を見てをりぬ
印形に残る朱肉や獺祭忌
コッヘルにスープの煮えて草紅葉
覗き見る舟屋は暗し石蕗日和
思ひ草枯れつつ色のなほ残る

2016-10-06 | Posted in ブログ, 句集を楽しむNo Comments »